星川まり(東京・社会運動部)です。
先日お知らせした、放射線教育政府交渉、地球救出アクション97稲岡美奈子さんからご報告をいただきました。
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2023年3月27日原子力教育、放射線教育政府交渉 速報
原子力委員会が決定し、2月28日に閣議決定された「原子力利用に関する基本的考え方」の以下の部分を中心に、放射線副読本、放射線教育「出前授業」「教職員研修」等も含めて、原子力委員会と文科省と討論しました。
初等中等教育段階においては、既に放射線副読本やエネルギー副読本などが配布されているほか、日本原子力学会によって、教科書での原子力に関する記載に対する提言も行われるなど、放射線やエネルギーに関する理解を深める取り組みが進められている。今後はこれらの取り組みを通じた原子力・放射線教育の一層の充実が期待される。
さらに、GX関連の2つの法案「GX推進法案」「GX脱炭素電源法案(束ね法案)」(原子力基本法改正を含む)が国会で審議に入っていることから、法案の内容についても議論しました。
予定していなかったことですが、束ね法案の中でも重要な「原子力基本法」改悪について、原子力委員会と議論できました。この部分に注目ください。反対運動を早く大きくしなければなりません。
文科省は変わらずのガードの堅さでした。今回の重要な問題は、原子力学会の学校教育への不当な介入とそれを原子力委員会が推奨し(内閣が承認)、文科省が容認したことです。広く知らせると共に、見張りを続けます。
全国37団体から賛同いただき、15人で討論を行うことができました。まとめ速報版を送ります。
YouTubeは、時間を間違えて撮影できませんでした。文字でやってみますので、お許しください。
原子力委員会
出席:委員会事務局参事官(原子力担当)進藤和橙さん、参事官付主査松井信衛さん、伊藤俊吾さん
質問書への回答
<原子力に偏った教育推進を「期待する」のは不適切。原子力学会が文科省、教科書会社に圧力をかけるのを原子力委員会が期待するのは不適切、撤回せよ>に対して、
進藤:「教科書の事実誤認を改めてもらうという意味である。こういった、原子力学会の活動は非常に重要だ。その結果、教科書に、エネルギーそれぞれバランス良く記載されている。放射線副読本にもバランス良く書かれている」
<国会に提出された束ね法案の、原子力基本法の目的に「温暖化防止」を入れ、原子力利用に国が責任を持つこと等が異常に詳しく書かれているのは不適>に対して、
伊藤:温暖化対策をエネルギーだけでなく経済構想に変えていこうというものである。温暖化対策やロシアのウクライナ侵攻の影響を受けたエネルギー安定供給等を検討した結果である。2月28日の「原子力利用に関する基本的考え方」の閣議決定というのは、政府として「基本的考え方」を尊重するというものである。「基本的考え方」に、この内容を「法律として制定することが望ましい」との一文があることから「原子力基本法改正」(束ね法案に含む)が出されたのである。
討論 私たちの側の発言は○、政府側は発言者の名前、( )内は、まとめた人の意見。
教科書・文科省への圧力に関して<原子力学会の教科書への圧力は「いけないこと」と伝えることはできた>
○原子力学会はひとつの民間団体に過ぎない。検定を通った教科書に対して、内容に介入する膨大な報告書を提出し、文科省、教科書会社に圧力をかける。原子力委員会がこれを評価するのは問題だ。
進藤:検定に類するものではない。教科書会社が採用するかどうか会社の判断。間違いについては、その後(教科書が)訂正されたと学会から聞いている。有意義なものと考える。
○福島事故の原因を津波の影響と書けとある。国会事故調でも、地震の揺れの影響を否定できないとしている。おかしいではないか。原子力学会とどういう関係か?
進藤:原子力学会と特別な関係はない。会員になっている委員はいる。
○放射線副読本には放射能の危険性を正しく書いてない。放射線が役に立つことを強調している。
進藤:役に立つということだけを書いている訳ではない。
○原子力学会は原子力推進にバイアスがかかっている。原子力委員会はどう評価しているのか。
進藤:放射線副読本、エネルギー副読本については一定の中立性が担保されている。教科書は、客観的に判断した上で事実誤認を指摘している。バランスは取れている。
○LNTモデルはICRPも認めており、低線量でも被害はある。どうか。
進藤:無用な被ばくを避けることは重要と考えている。被ばくを少なくすることが大切と書いてある。
○「基本的考え方」に対するパブコメの結果を教えてください。
進藤:2300件。人数とは言えない。理由は、1回提出の中に3つ意見を書ける。送った回数が2300回ということ。賛成、反対が何件かは言えない。分類できないため。
原子力基本法改定法案に関して <このひどい法案、原子力委員会が作ったのではないようだ>
○原子力基本法改定案はひどい。基本法に国が責任を持って原発推進することを細かく書き込んでいる。以前、原子力委員会にいた鈴木達二郎さんも「やってはいけない」と行っている。ウクライナの戦争が終わり、エネルギー情勢が変わると、また書き直すのか。原子力利用の憲法と言える基本法だ。
伊藤:中長期的に考えて政府が法案を提出した。国会で審議されるので、そこで説明していきたい。
○改定案は誰が考えたのか?原子力委員会は、法案は議論していないのか?
伊藤:原子力委員会の「基本的考え方」を踏まえて法案が作られた。
○「基本的考え方」と法案の間にはものすごいギャップがある。つまり、パブコメに出されなかったことが法案に書いてある。誰が法案を書いたのか?高市大臣か?
進藤:原子力基本法は内閣が担当している。その責任者は高市大臣だ。
○基本法に書く必要のないことが書かれている。パブコメの内容とかけ離れている。
伊藤:法律だからパブコメにかける必要はない。国会で審議する。
○あれで良いのか?
進藤:政府として提出したので、これから国会で審議する。
○国の責務を並べているが、福島事故への国の責任を認めているのか。今は、事業者の責任としているが、これからは国の責任か?
進藤:事故責任について内閣府としては関わっていない。制度全般は国がやっており、損害賠償も改善している。
○原子力に関する政策大綱を国が作っていたが、その委員会は原発推進派ばかりだった。
○立地地域の説得に、国が当たると書いてある。許されるのか。
○法案を今回は流して、考え直してください。
文科省
出席(敬称略)
初等中等教育局教育課程課 専門職 麻田 卓哉
初等中等教育局教育課程課 教育課程総括係長 齋藤 紫乃
初等中等教育局教科書課 教科書検定調査専門官 池田 真信
研究開発局環境エネルギー課 課長補佐 田村 嘉章
研究開発局原子力課立地地域対策室長 酒匂 義弘(当日、欠席)
研究開発局原子力課立地地域対策室専門官 高橋 大吾
総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課
消費者教育推進係長(併)環境教育推進係長 松尾 雄樹
スポーツ庁政策課企画調整室学校体育指導係
(併)保健教育係係長 岸 洋平
原子力委員会「基本的考え方」(教育への介入)への文科省の対応・意見 質問書への回答
文科省は原子力学会の活動を見ないふり、教科書会社への圧力も対応は会社の自由と見ないふり
○原子力学会の教科書に対する提言の扱いは?(○は私たちの質問、発言)
麻田:そのような提言に関しては、随時文科省の幹部に渡され、その都度、担当課へ渡される。
○その提言は学習指導要領に反映されたか?
麻田:平成30年度の改訂で、中学2年生の理科、「電流と利用」の「取り扱い」で「真空放電と関連付けて放射線を扱う」と新たに書かれた。また、現代的諸課題、教科横断的分野に「放射線教育」が入れられた。
○それは福島事故に対応するためか?
麻田:東日本大震災や熊本地震災害等の困難な時代に社会を形成する生徒を育てる。放射線の正しい知識と理解を形成するもの。(熊本を付け加え、決して福島事故と言わない)
○2013年度から放射線教育の担当部署が初等中等局に代わった理由、経過は?
麻田:放射線副読本に関するH20年6月の行政事業レビュー公開プロセスにおいて、担当部局が原発推進の研究開発局、予算がエネルギー特会では国民の理解が得られないと判定され、文科省内で改めて検討し、初等中等教育局教育課程課が担当することになった。(経過を聞いたのは初めて)
高橋:移管前は「原子力教育支援事業」(これは間違い。この時点では「原子力・エネルギー教育」に変更されていた)であった。
○原子力学会は教科書改訂ごとに教科書を全部点検し、文科省に申し入れを行っている(26年間)。教科書検定に影響を与えたか?
池田:提言を踏まえて、教科書の表現を変えるようなことは求めていない。
○「基本的考え方」によると、原子力委員会は「放射線副読本」を原子力推進の手段と捉えているようだが、文科省は副読本の目的をどのように考えているのか。
麻田:福島事故に伴う避難でいじめが生じた。学校へ通達を出したり、スクールカウンセラーをおいたり対策を行ったが、放射線に対する科学的知識が重要と考え、教育委員会に放射線教育を求めた。(「事故を継承し、事故を起こさない教育を行うべき」というこちらに問いかけには答えない)
○現行「放射線副読本」は復興を強調し、汚染水海洋放出を認めさせる記述だ。
麻田:有識者・専門家の意見を聞き、科学的根拠に基づき作った。(この部分、討論で問題にした)
○再エネではなく、原子力教育だけに力を入れるのは不適切。
田村:「GX実現に向けた基本方針」にキャリアアップも書いてある。(?)
討論
○「原子力利用に関する基本的考え方」の中で、任意団体の一つに過ぎない原子力学会の活動を原子力委員会が公的文書で取り上げ、(高く)評価している。文科省はどう考えるのか?
麻田:コメントを差し控える。この提言と関係なく検定を行っている。
○影響ないと言うが、効果があるからやっているのではないか?公平性の担保は何か?教科書の多様性の保障は?
麻田:(答えず)
○放射線副読本、放射線教育は福島のためか?子どもたちを放射線から守るとか、いじめから守るとかか?
麻田:科学的理解だ。放射線理解を深める。(決して、福島のためと言わない!)
○放射線は低線量でも被害があることを教えないと、避難者へのいじめが止まらない。放射線はエネルギーが高いのでDNA二重鎖を切断し、被害が起こる。放射線に注意深くすることを教えなければ子どもの未来を奪う。安全量はないことを教えるべき。
麻田:専門家の意見を聞いている。
○偏った専門家ではないか。専門家とは誰だ。選定の仕方を示せ。
麻田:公開できない。
○まちがっていないか、検証せよ。
麻田:(答えない)変える気はない。
○最近は教科書でも賛否両論を書くようになっている。批判的学習を文科省は勧めているのではないか。
麻田:科学的知識だ。
○放射線副読本に同封して一方的に海洋放出を良いとするビラが学校へ送られた。非常に不評だった。副読本の海洋放出の記述も同様だ。政府の方針を伝えるだけのものになっている。
麻田:有識者、専門家の意見に従った。個別回答できない。専門家の選び方は公開していない。
○原子力委員会は「原子力・放射線教育」に期待しているが、文科省は期待に応えるのか?
麻田:原子力委員会に聞いてください。
環境・エネルギー教育について 質問書に答えて
(質問が整理されておらず、文科省がまだ対応できていないようで、かみ合わない質疑でした。)
○文科省は「GX実現に向けた基本方針」をどのように捉えているのか?
文科省:カーボンプライシングが書かれている。それに協力する。(?)
○原子力教育ではなく、気候・エネルギー教育を行うべき。
麻田:環境教育でやっている。
○気候・エネルギー教育に予算を付けよ。
松尾:消費者教育でSDGs、持続可能な社会の実現という事業を行っている。
○公平な情報を与えるデータバンクを作れ。
麻田:一人1台持っているパソコンで検索できるので、気象庁ホームページからからIPCC報告もとることができる。中学理科の自然環境の保全で教えることができる。
(社会の急激な変化に対応しようという姿勢は感じられない)
文科省との話し合いを終えて
科学的知識を児童生徒に与えれば、いじめや汚染水海洋放出反対は起こらないという態度です。科学的知識とは文科省が選んだ専門家であって、選び方は公開していない。私たちがチェックすると文科省は原子力ムラに偏った専門家ばかり選んでいます。つまり「科学的知識」がゆがめられているのです。去年の話し合いよりも話がすっきりしたようです。福島事故はなかったことにし、政府が原発推進に舵を切ったことの影響でしょうか。
偏った科学的知識を与えるのではなく、子どもたちが自分たちで調べ、考え、討論し、結論を得る。そして、実践する。文科省はこのような教育を目指しているはずで、アクティブラーニングを推奨していますが、文科省の答弁内容は偏った「知識」で政府の方針を支持する教育を行っていると感じられました。
私たちは、今後も文科省「(原子力)・放射線教育」を見張ります。政府、原子力委員会、原子力学会の行動も見張ります。
質問書賛同団体(順不同)
道民視察団(北海道原子力防災雛訓練道民視察団、ベクレルフリー北海道、脱原発ネット釧路、福島県教職員組合、エネルギーのいまを考える会、奈良脱原発ネットワーク、道民視察団(北海道原子力防災雛訓練道民視察団)、今を生きる会、ふぇみん婦人民主クラブ、反戦タイガーズ兵庫、緑の党グリーンズジャパン、川内原発建設反対連絡協議会、公平な放射線教育を考える会@しずおか市民電力連絡会、サヨナラ原発福井ネットワーク、原子力教育を考える会、オルター、放射線被ばくを学習する会、日本山妙法寺 、原発止めよう!九電本店前ひろば、うちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会、横田行動実行委員会、ヒロシマ•エネルギー•環境研究室、ヒロシマ•エネルギー•環境研究室、原発廃炉金属の再利用を監視する市民の会、日野市の今と未来を考える会、原発さよなら四国ネットワーク、安全なふる里を大切にする会、国際女性年連帯委員会、科学技術問題研究会、原発の危険性を考える宝塚の会、ヒバク反対キャンペーン、原発はごめんだヒロシマ市民の会、核のごみキャンペーン関西、高木学校、関西よつ葉連絡会、グリーン・アクション